パピヨンの部屋 - Welcome to Papillon's room
新しい波
 
 風があつまると、漣ができる。漣はそれぞれに笹草のように風と遊んでいる。
風がやむと、なんだもうお終いかと静かになっている。とおくから波が運ばれてくると、そこの水は漣どころではない、波のうねりを持ち上げねばならない。持ち上げて降ろす勢いが次のうねりの力になるからだ。ただ昇降のままに身をあずける水の分子、力以上の力をだそうと苦しむ分子、いくつも連鎖し力を集めようという分子、分子たちには顔がない。
 
 そこの水たちは、ちいさなリズムをもっていた。そのリズムは次のリズムへ拡幅し
、となりの波のリズムと共振し、しだいに大きくなっていった。経験の少ない分子は、声をもっていたので、うまく合せることができた。そうしてひとつの波ができた。それは波を引き継いだのではない。それはもう終わっていたから。そうして水は風をふくみ、呼吸し、高まり、次のうねりにすべて任せて消えていった。
 
New Wave
                 
When winds gather, ripples are made. They are playing like lots of blades, 
shaking the grass each way. When the wind stopped, discontented,
 they said “Come on, more wind, it cannot be over” and then they fall quiet. 
When another wave was carried from a far shore, waters could’t play 
with it anymore  because they had to lift the welter all together. 
The momentum which is lifted and lowered  becomes the power 
to make the next welter. Each element did the same movement trying 
to show something beyond its the ability, always chained together  
trying to collect the power  and remained faceless.
 Water moving there had a weak rhythm. The wave widened itself to relay
 to the next one and resonated with it and it gradually got larger. 
They made a sound so that the elements 
which do not have much experience could mix well. Thus new waves were born. 
They didn't take however the latest wave. Therefore the wave embraced a wind, 
breathed freely, and rose up. In the end it is also vanished, in order to give 
everything away to the next welter.
June 19, 2015
銀翅の蝶
                     
 真っ暗がりで、銀色の翅を思いきり広げてみせたら、それは帆のように軽く膨らんだ。光の方へ向けたら、背中をそうっと押されるような力を感じた。
 何処へ辿り着くべき旅なのかわたしには知らされていない。そして戻ることは定められていない。夢想だに許されていない。ただ静かに漠たる真空間を進んでいる。
 幸いにも朽ちることもないこの銀翅は、光を力に闇に吸われていく。あの青白い星の、あの場所では、いまもわたしを追跡しているはず。生きているという信号を送り続けているかぎり・・・
 砕け星の、その塵の、毳(けば)すらも、この翅に触れずにあれ。
手を広げて止める物もない宇宙に、この蝶は進んでゆく。わずかな光を求め、感ずるかぎり、胸をはり顎をあげて、包んで放たれた掌の温かさに応えていくのだ。 
  
Silver Wing Butterfly
 
As I spread four silver wings at full extension, in ultimate darkness, they billowed out slightly.
When I directed them catching the light, I felt a force be pushed back softly. It is not informed me where I should arrive, nor the return is not defined, and I am not allowed to dream that. I'm willing to go in vacant vacuum space quietly.
Fortunately this silver wings are not corruptible, and go with the power of light being merged in the dark. Of that blue planet, at that place of the earth, someone should tracks me as long as I continue send the signal
that I am alive...
May nothing touch my wings! Even a piece of broken star, or the dust from them, or fluff of it. In the universe which has not thing to stop me with open hands, this butterfly continue on. In seeking of light, as long as I feel, I go forward with proud of human-made, corresponding to the warmth of the palm which wrapped me and released to the universe.
 
マケドニア素描より


森の泉

妖精が棲んでいそうな、緑濃い泉に、木漏れ陽が遊ぶ。誰も触れない水の美しさ。光は葉を照り返し、その光は水底を照り返し、その光は樹を照り返し、その光は舟を照らす。深い森の泉の静けさ。
花火
(紅花しぶき芯青紅)
 意を決して咲くのだから、放物線は描かない。まっすぐ天を目指し、力尽きたとき、花芯に火が届くだけだ。上へ上へ、連鎖して咲き競う無機の花。
 きらびきの硫黄(ゆわう)は炸裂する。よろこびの紅(べに)はしだれゆく。名残の青火(あお)は円弧(あーる)を描き、紅味を帯びて消えてゆく。
 紛れなく円(まろ)らかに咲いた花。もう危うさの硝石は尽きてしまった。暗黒の海の面に墜ちていくのに、ときめきを装うどんな色がいるだろう。
                         「心薫る女(ひと)」 (竹林館)より
最後のしずく
1973年のワインによせて
 薫ることを封じられて二十年。おまえはどんな時を待っていたのか。なぜ、わたしの手にあるのか。ともかくも、開けてあげよう。ためらいは要らない。薫れるものはふくらかに薫れ。自らの歳月を揮発せよ。コルクはこんなにも柔らかではないか。
 彼の時、まだ青みの残ったぶどうの房は、みなの足で踏まれ絞られ、樽のなかで土を恋うてさんざ泣いたという。陽光を遮られた密室で、おまえは甘みを分解しつつ、ひとつの力をわがものとした。
 さあ、きょうはわたしのために赤く輝いておくれ。汚い空気に触れなかったことを祝って栓を抜こう。グラスを今日の太陽にかざしてやろう。遠慮がちに隠れている渋みを賞味させておくれ。
 そして、最後のしずく、尊くも悲しみの澱(おり)は底に残しておこう。おまえの未来とわたしたちの思い出のために。
                        (2010 ストルーガ詩祭にて発表)